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過去記事REMASTARD:第3回 情報社会と弁護士の役割 ~岩波六法の廃刊から考える(2013.7)
先日「岩波書店が,六法の新規発行をやめる」という報道がされていました。
その理由として,法律の条文などが,WEBで無料でいくらでも調べられる時代になったため,という趣旨の説明がされていました。
思い返せば,生まれて始めて買った六法が「岩波コンパクト六法」でした。
学生でも買える値段の代わりに情報量は絞り込まれた小さな六法でしたが,法律家への入口に立ったような気がしてうれしかったのを覚えています。
それから今日に至るまで,毎年六法を買っていますが,あの水色の小箱に入った六法の印象は,今でも鮮烈に記憶に残っています。
ですので,この岩波六法廃刊のニュースを聞き,少しさみしく感じました。
他方で,感傷を除外してみれば,このエピソードは,情報社会の中で,法律に関する情報をめぐるこれまでの枠組みが,変わってきていることを示すものです。
たしかに,インターネット技術の普及などにより,法律に関する情報・知識は世の中にあふれていると思います。
わざわざお金を出して六法を買わなくても,スマートフォンで,「離婚」と検索すれば,いろいろな情報のページがヒットします。
いつでもどこでも,ローコストで,莫大な情報に接することができるわけです。
その意味では,紛争に直面している当事者が,専門家や専門書にアクセスすることなく低廉なコストで自らの抱える紛争に関する情報を取得できる時代になっていると言えるでしょう。
しかし,こうして得られる情報を専門家の視点から客観的にみると,その内容は玉石混交と言わざるを得ません。
情報社会においては,情報を見極める「判断力」が求められる,と言われて久しいですが,法律に関する情報もまさにそれがあてはまると言えると思います。
そして,この情報に対する「判断力」は,法律に関するきちんとした知識と経験を基礎としなければその地力を涵養できないものです。
また,多くの情報は抽象的な規範だったりします(逆に言えば具体的すぎる情報は,特定の事例を前提としていることが多く,参考になる場合が限定されます)ので,それを踏まえて,具体的事案においてどうすべきかという「方向性」にたどり着くには,知識・経験だけでなく,技術的な側面も必要となってきます。
こう考えると,情報社会における法律専門家の存在意義は,まさにこの「判断」と「方向性の組み立て」にあると思います。
依頼者・相談者の皆さんによりよい「判断」と「方向性」をお示しできる「まっすぐな法律事務所」たるべく,研鑽を続けていきたいと思います。
2013年7月に掲載した記事です。
現在も進化を続けている生成AIは,今後の法律実務に2013年の六法廃刊以上のインパクトをもたらすことになるでしょう。
判断も方向性の組み立てもAIができるようになっていくとすれば,弁護士の仕事は「生身の人間」でなければならない「現実での行動」に収斂していくことになるのかも知れません。